「おじいちゃんの絵手紙
孫に宛てた1200通のおくりもの」(講談社刊)
という、ステキな本を見つけました。
ある、イギリス軍人のおじいちゃん
(イギリス小説の挿絵に、よく出てくるような、
それはそれは立派なおひげの
軍服姿のおじいちゃんです)が、
インドで暮らしている、4人の孫たちに書き送ったという
「絵手紙」1200通。
イギリスから、インドへ…ということは、
インドが植民地だった時代のことですね。
世界は、戦争の色のまだ濃い時代です。
(こちらが裏表紙に載っている、
絵手紙、絵封筒の一部↓)
ちょっと拡大してみましょう。
切手が貼ってあるのがおわかりですか?
そう、これは真っ白な封筒に、
おじいちゃんが絵を書いて送った
「絵封筒」なんですよ。
おじいちゃんのお話は毎回、
封を開ける前から始まっているというわけです。
この封筒を手にした子どもたちは、
いやきっと、
これを届けるインドの郵便屋さんも、
イギリスの郵便屋さんも、
どんなにワクワクしたことでしょうか。
絵手紙の内容は、
子ども達が小さかったころには、
ゾウ
やウサギ
などが
ユニークなキャラクターとなって、
「いろんなことをしでかす」
楽しいお話が。
子ども達が大きくなってきてからは、
男の子には、狩りや最新技術の話を、
女の子には、自然や命の大切さ、
料理やお裁縫についての話を…
と、自然に広がっていきます。
だんだん成長していく孫たちへの、
おじいちゃんの愛情がいっぱいです。
このあたたかさ、純粋さは、何?
なぜ、こんなに優しい気持ちになれるの?
どうして、この本はわたしの胸を打つの?
この本は、絵手紙や画材の
「絵の技法書」のコーナーにあったのですが、
他の本とは全然、
違う波長を放っていました。
他の本は、とてもキレイで、印刷も美しくて、
上手な絵や、達筆な絵はがきが書かれていて、
「こういう風に書くには、
こうやればいいのですよ」
という丁寧な技法解説が載っています。
それに比べたら
「おじいちゃんの絵手紙」は、
色も褪せ始めたセピア色。
なのに、行間からにじむのは、いっぱいの
愛情、自由、楽しさ、開放感!
前者が、
著者の「好き」をテーマに、
人や世間との接点をさぐって
一生懸命、一つの形にまとめていった
ものだとしたら、
後者は、ただ、
「愛」だけがそこにあるという感じ。
そこに、「必死さ」や「形」はなく、
ただ楽しくて楽しくて、
自分で書いていてもユーモラスで、
子ども達の笑顔を思い浮かべながら筆を進めるうちに、
いつしかそれに羽根がはえて、
遠くインドまで飛んでいった…というような。
なんて、自然な表現なんだろう。
なんて、自由なんだろう。
たくさんの誰かに見られることよりも、
大切な人を喜ばすために書かれた純粋な絵。
そして、これを本にして、
後世に残して行こうとする人が
いてくれたことの素晴らしさ。
私自身は、出版界の常識を、
「無難にまとめること」や
「形を整えること」だと思って
仕事をするクセをつけてきた人間です。
そして今でも、正直、
「どうしたら美しくまとめられるか」
ということばかり追い求めては、
焦ってばかりで、つい、
目の前で起こっているきらめきさえ、
気付かずにとりこぼしてしまうような、
勿体ないことばかりしています。
でもそんな私に、この本は、
とても大切な「何か」を
教えてくれている気がする。
出版が、経済や競争であることは、
仕方がないのかもしれない。
でも、出版には
「大切な価値あるものを残していく」
という役割もあるんだなあって。
それをちゃんとしてくれている本を
見つけられて安堵したと同時に、
とてもあたたかい灯が心にともった気がします。